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民事信託は成年後見と同じく横領リスクが高い

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信託とは(確認)

信託とは、信託したい人が、受託者に対して財産を「移転」し、受託者が信託目的に従って、受益者のために管理処分することをいいます。

商事信託だと、受託者が信託銀行になります。

ここで話をしたいのは、信託銀行以外が受託者となる民事信託と呼ばれるものです。

 

民事信託と成年後見は近い?

実は、民事信託と成年後見は、非常に近い制度です。

成年後見とは、法務省のページによれば、次のように解説されています。http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html#a1

 認知症,知的障害,精神障害などの理由で判断能力の不十分な方々は,不動産や預貯金などの財産を管理したり,身のまわりの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり,遺産分割の協議をしたりする必要があっても,自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。また,自分に不利益な契約であってもよく判断ができずに契約を結んでしまい,悪徳商法の被害にあうおそれもあります。このような判断能力の不十分な方々を保護し,支援するのが成年後見制度です。

成年後見は、成年後見人という裁判所が選任した人(親族の場合もあれば、弁護士などの専門家のこともあります)が、認知症になった成年被後見人の財産を、その人のために管理する制度です。

民事信託と同じく、成年後見も他人の財産を実際に把持し、管理する制度なのです。

信託法の改正を担当した方も、ある種の信託を、成年後見と同様の、高齢者などの身上監護をするスキームと捉えています。

財産を管理する人の管理方法も、実は、以下のように同様のシステムが取られています。

・信託用の通帳の作成、成年後見用の通帳への変更などにより、財産管理者の財産と分離して取扱う

・金銭出納帳などをつけ、管理状況を記録し、書類作成し、報告しなければならない。

などなど・・・

成年後見で横領案件が増加している

成年後見では、親族だけではなく、弁護士や司法書士の横領案件が多いです。

その原因の一つは、自分の下に財産があると、自分のために使いたくなる誘惑に負けてしまうということがあるようです。

決して許される理由ではないですが、これが実情といえます。

最高裁の調査によると、親族を含む後見人全体の2016年の不正は502件(同約26億円)で、最多だった14年の831件から2年連続減少してはいますが、やはり多いといえます。

専門家による横領も、2016年で30件あり、被害総額は約9千万円とのことです。

民事信託は成年後見より横領の誘惑が強い?

民事信託は、成年後見よりも誘惑が強いといえます。

所有権も受託者に移転されていますし、なによりも成年後見とは違い、裁判所の監督が及ばないため、管理状況の記録管理も十分になされないことが想定されます。

インターネットや書籍に掲載された信託のひな形では、この分別管理の方法について明確に記載がないものもあり思わず横領するということも発生してしまう状況にあるといえます。

さらには、受託者に報酬が発生しないと定められているものも多く、分別管理の負担に見合わないということもあります。

その点では、今後数年にわたり、民事信託での横領案件が急増するのではないかと感じております。

 

どうするのがよいか

一つの手段としては、信託銀行を関与させた商事信託を活用することが考えられます。

そうすると、横領のリスクはぐっと低くなります。

また、そこまでの予算が出ない人には、弁護士を信託監督人という立場で選任し、定期的に監督してもらうのもよいでしょう。

もう一つは、信託以外のスキームを活用することです。

何を目的に信託を組むのかというところを、専門家ときちんと話し合って、方針決定していくのがよいでしょう。

弁護士 杉浦智彦