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遺言を作っても「遺言能力」で争われる?対策は?

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遺言さえ作っておけば安心と思っていませんか?

遺言を作成し、争いが生じないように後継者へ経営資源の引き継ぎをしておくと、非常に安心した気持ちになると思います。

後継者にとっても、安心が得られるため重要です。

事業承継のとき、とりわけ、先代経営者が年を感じ始めた段階で事業承継をすることも多く、後継者のほうがイニシアチブをとって遺言の内容を決め、それに先代経営者が合意してもらうということも多いように思います。

しかしながら、このような場合、子どもたちなどの相続人間の仲が悪いと、紛争を無理やり引き起こすことも考えられます。

その一つが、これまで何度か説明をしてきた「遺留分」、そしてもう一つが、今回説明する「遺言能力がないことから遺言が無効だ」という主張です。

遺言能力とは?

遺言能力とは、「遺言当時、遺言内容を理解し遺言の結果を弁識し得るに足る能力」のことです。これがなければ、遺言を作成しても無効だと判断されます。

「先代経営者は、認知症で、誰にどの財産を渡すなんて判断はできなかったんだから、遺言も無効なんだ」という理屈です。

遺言の効力が争われる理由のトップが、実はこの「遺言能力がない」という主張です。(次は、方式が誤っているという「方式違背」と呼ばれるものです)

 

遺言能力の判断方法とは

遺言能力は、「当該遺言の内容について遺言者が理解していたか」を、次の7要素を総合的に考えて判断し、理解していないといえる場合に、遺言能力がないと判断しています(土井文美判事著「遺言能力(遺言能力の理論的検討及びその判断・審理方法)」判タ1423号15頁以下・20頁)。

  1. 遺言者の年齢
  2. 病状を含めた心身の状況及び健康状態とその推移
  3. 発病時と遺言時との時期的関係
  4. 遺言時及びその前後の言動
  5. 日頃の遺言についての意向
  6. 受贈者との関係
  7. 遺言の内容

実務ではどんな証拠で判断されているのか

遺言能力の判断要素を見る限り、医学判断だけではないことが伺われますが、それでも大切となるのが、かかりつけ医師の判断およびその基礎事情です。

代表的には以下の5つの証拠です。

  1. 頭部画像所見(CT, MRI, SPECT, PET, 脳波検査などの基礎データ含む)
  2. 診断書、医師の意見書等(裏付けとなるカルテ含む)
  3. 認知症の評価スケール結果(長谷川式など)
  4. 要介護認定の調査結果
  5. 症状についてのメモ・判断

さらに、以下の証拠も使われます。

  1. 訪問介護の介護指示書、親族に対する回答書
  2. 介護施設の入所記録、ヘルパー等の陳述書
  3. 遺言者の作成した手紙、ビデオ、録音テープ
  4. 専門家の関与を示す証拠
  5. 裁判が始まってからの鑑定

どういう対策をすれば遺言能力が争われなくなる?

まずは、医師の意見書をとっておくことが必要です。

その中で、先代経営者が、きちんと財産を譲り渡すことを認識できるだけの能力があることを書いてもらいましょう。

さらに、専門家(公証人・弁護士)を遺言作成の場に立ち会わせることが大切です。第三者であるだけでなく、専門家が関与することで、より「確からしさ」が増し、争われにくくなります。

また、遺言作成の場をビデオで録画しておくことも大切です。ここまですれば、遺言作成のときに、きちんと遺言能力があったことを示すことができます。

以上のような対策を遺言までにしておけば万全といえるでしょう。

 

弁護士 杉浦智彦