Case1 番頭への後継は決まっているが、目の黒いうちは監視をしておきたい場合
悩みのポイント
- 先代経営者は後継者を監視しておきたい
- いずれは後継者である番頭に株式を引き継がないといけないと思っている
- 後継者にお金がない
結論
・相続人と後継者の仲が悪くなければ、任意後見+遺贈がベスト。その際、事業承継税制を活用
・仲が悪いような場合は、先代経営者に1/3ほど株式を残して後継者に贈与。その際、事業承継税制を活用
・相続人が揉めないよう、事前に相続財産を整理し、公正証書で遺言を作成
ツールを決める上で大切となるのが相続人の処理
先代経営者には娘さんがいます。
もし、番頭さんに株式を贈与や遺贈で渡すとすると、その娘さんが本来もらえるはずの遺産が減ることになります。
そのとき、娘さんは、「遺留分減殺請求権」という権利を行使し、この番頭さんへの株式を一部引き渡せと主張できるようになる可能性があります。
もし娘さんに株式の一部が残るとなると、後継者と娘さんとの間で紛争が生じることは明らかでしょう。
相続人が揉めないなら、任意後見+遺贈がベスト
もし相続人が株式などの財産に興味がないような場合であれば、遺贈がベストでしょう。
死ぬまで株式を持っていれば、それまで後継者を監督できます。
遺贈を公正証書で行い、弁護士を遺言執行者とすることで、空白期間もなく円滑に株式を後継者に引き継ぐことができます。
ただ、死ぬまでということになると、もし途中で認知症になってしまうと、株主総会を開催できなくなるなどのリスクもあります。
そのため、「任意後見」という制度も併せ導入するのがよいでしょう。
揉めるかもしれないなら、財産を整理の上で遺留分を行使できないようにする
もし揉めそうなら、遺贈という形ではなく、贈与の方法を取るのがよいでしょう。
1/3以上の株式を残しておけば、事業を売却するなどの重要な決断は、先代経営者の意思なく行うことはできなくなります。
贈与であれば、遺留分減殺請求もされにくくなります。
そして、残された1/3の株式も、後継者に遺贈させることになりますが、万が一にも遺留分減殺請求をされないよう、財産を整理し、遺言で相続する財産を定めておくのがよいでしょう。
場合によっては、あらかじめ後継者以外の相続人に遺留分を放棄してもらうような交渉をすべき場合もあるかもしれません。
遺贈・贈与のとき、事業承継税制が使える
遺贈・贈与のとき、事業承継税制が使えると、贈与税・相続税が猶予・免除されることになります。
これによって、後継者の負担を相当緩和することもできます。
さらに良いのが、後継者としては、8割の雇用を維持しなければ、この税金猶予が原則として解除されてしまいます。
そのため、後継者が勝手に従業員を解雇したりできなくなるのです。
事業承継税制は、こんなところにも使えます。
弁護士 杉浦智彦