過去、会社の経営支配権の対立が発生したとき、支配権対立で負けた旧経営陣が、3社の法律事務所を使ったことが不要な支出だったとして、善管注意義務違反の損害賠償請求をした事件がありました。
伊豆シャボテンリゾート事件といいます(東京高判H30.5.9)。
事件の概要
本件は,JASDAQ上場の株式会社であるX社において激しい株主の多数派形成工作や支配権争いが繰り広げられていたところ,支配権争いに勝利した取締役らが経営する現在のX社が,支配権争いに敗れたY(X社のかつての代表取締役)に対し,「Yが株主提案による取締役解任等を求められている状況の下,自己保身のための対抗策を模索し,X社の当時の代表取締役として,弁護士に法律事務を委任しX社の費用負担で報酬を支払ったのは,取締役としての善管注意義務,忠実義務に違反する。」と主張して,会社法423条に基づき,弁護士報酬相当額2682万8392円の損害賠償及び遅延損害金(始期は訴状送達の日の翌日である平成27年8月31日,利率は民法所定の年5分)の支払を求める事案である。
東京地裁の判決(H29.11.22)
東京地裁は、善管注意義務違反を認め、損害賠償請求を認めました。
これに対して、Yが控訴したのが、本控訴審です。
控訴審の判断
Yが買収に対する防衛策を講じようとしたことには相当の理由があり、Yの個人的な保身に目的があったとは認められず、また、Yが各法律事務所に委任した事項は当時のX社にとって必要、有益なものであり、その対価役務も提供されていると認定するなどして、Yの善管注意義務違反、忠実義務違反を否定しました。
弁護士費用を払うことは大丈夫?
当該案件は、弁護士費用が相当高かったことも一つの原因かとは思います(2700万円ですからね・・・)。
ただ、それでも、「きちんと仕事をしていて」、なおかつ「自己保身目的」であるといえない(=買収する側になにか問題がある)場合であれば、弁護士費用を払うことが善管注意義務違反になることはなさそうです。
弁護士 杉浦智彦