売買で株式を渡すのでなければ、どうしても相続の話が関わってくる
「会社の株を、息子に譲った」ということは、よく訊く話です。
ただ、(贈与税のことを気にすることはあっても)「相続に関わるかもしれない」と思われる経営者の方は、それほど多くないように思います。
「なぜ、生きている間の贈与に相続の話が絡んでくるの?」と思われる方のため、解説をします。
死亡前10年の自社株式の贈与は、特別受益に該当し、相続の争いになりうる
特に、資産のほとんどが自社株式のような経営者の相続の場合、トラブルになります。
相続で争ってくる人は、「もらえるはずの財産がない!」という形で争います。
その請求を、法律で「遺留分減殺請求(民法改正により、遺留分侵害請求に変更)」といいます。
「遺留分」というのは、最低限、相続人にわたすべき相続財産という意味なのですが、この計算方法は、
①遺産
+
②死亡1年間の生前贈与
+
③相続人に対する「特別受益」
この①~③に借金などの負債を差し引くことで算出します。
この③が問題となります。
特別受益には「生計の資本として受けた贈与」が含まれる
この特別受益には、あらゆる贈与が含まれるわけではありません。
限定がかかっており、特別受益に含まれるものの一つが「生計の資本として受けた贈与」になります。
果たして、この「生計の資本」が何なのかが問題となりますが、これには「生計の基礎として役立つような財産上の給付」が含まれます。
そのため、家族企業の株式は、典型例として、この特別受益にあたると考えられるのです。
特別受益だとどうなる?
株式の贈与が特別受益となると、次のような事例でトラブルが起こります。
事例
先代社長は、自社株式100株(時価総額1億円)を保有していましたが、ほかに財産は、預金100万円しかありませんでした。(借金はなし)
先代社長は、財産を整理することなく、息子であるAさんに株式のすべてを贈与しました。
まもなく、先代社長がなくなったところ、遺言もなく、Aさんと、先代社長の娘であるBさんとの間で遺産分割協議がはじまりました。
Bさんが、「Aさんばかりズルい。100万円の預金の半分だけなんて納得できない」ということで、遺留分の主張をしてきました。
この事例だと、Bさんは、遺留分侵害請求をすることができ、1億100万円の1/4をもらう権利を主張することができます。
困ったのはAさんです。
改正後の相続法だと、遺留分侵害請求をうけると、お金で賠償しなければならなくなるため、Aさんは、多額の現金を失うことになります。
Aさんとしても、会社を運営していくことが困難となってしまうわけです・・・。
どうすればよい?
この事例では、事前の対策をしていなかったから、このような問題が起こりました。
このような自社株式の贈与は、「本当に相続に影響が出ないか」というのを、きちんと確かめてからでないと危ないといえます。
もし、株式の贈与を検討しているようでしたら、早めに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
弁護士 杉浦智彦